コラム

民事信託の基礎知識
信託を活用すると税金が発生するパターンとは?

家族信託を活用する際には、税金を考える必要があります。最終的な税務リスクは顧問の税理士や税務署へご相談ください。ここでは、一般的な信託に関する税金のお話しをしましょう。

 

信託財産に不動産が含まれていると、所有権移転登記が行われるため、登記簿に受託者の氏名が記載されます。しかし、登記簿上の所有者が形式上、受託者に名義変更がなされただけでも、税金が課税されるのでしょうか?

 

信託設定時における税金は二つの考え方があります。

 

 

①自益信託

まず、「委託者」=「受益者」が同一人物であるのかないのか、が問題となります。
「委託者=受益者」の場合には、受益者は利益を受けている訳ではないので、贈与税は課せられません。

 

 

②他益信託

委託者≠受益者の場合、つまり両者が異なる場合には、みなし贈与とみなされて贈与税が課せられます。

 

また、どちらの場合にも、課税されるのが、所有権移転登記の手続き時に発生する登録免許税です。
そして受託者への不動産取得税は、形式的な所有権移転のため発生しません。
同時に、委託者への譲渡取得税も利益発生が起こらないため課税されません。

 

 

では、受託者に課税される税金はあるのか?

それは、毎年1月1日の不動産所有者に課せられる固定資産税です。形式的に所有者になるため、受託者に固定資産税が課税されます。しかし、実質的には信託財産の中から実務として受託者が支払いをするため、負担者は信託財産から支払うケースが多いです。

関連記事

  • 民事信託の基礎知識
    家族信託を設計してみよう

    この章では、実際に信託を活用する際の流れをご紹介します。

     

    次の項目をお考え頂いた上で専門家へご相談頂くと、スムーズにお話ができるのではないかと思います。どうやって決めればいいか分からないという場合は、相談しながら決めていけば良いでしょう。

     

    (1)目的を明確にする

    何より大事なのは、皆様がご自身の財産をどうしたいのかという「想い」ですから、その「想い」を明確にしていく作業から始まります。まずは、次のチェック項目の中にご自身に当てはまるものがあれば、チェックを入れてみてください。

     

    □ 自分が元気なうちに財産の分け方を決めておきたい
    □ 相続人の遺産分割協議がまとまりそうにない
    □ 財産の管理を誰かに任せたい
    □ 認知症が心配
    □ 近い将来不動産の処分を考えている
    □ 複数人で共有している不動産をどうにかしたい
    □ 二次相続以降に不安がある
    □ 会社を後継者に引き継ぎたいが方法が分からない
    □ 先祖伝来の不動産は代々引き継いでほしい
    □ 自分の死後、生活が心配な相続人がいる(障がいをお持ちの方など)
    □その他(             )

     

    (2)当事者を誰にするか

    次に、それぞれの役割を担ってくれる方がいらっしゃるか、誰に財産を引き継いでいきたいかを考えていきます。

     

    委託者:皆様ご自身

    受託者:

    第一次受益者:

    第二次受益者:

    第三次受益者:

    ※委託者と受益者が異なる時は、贈与税が発生します。

    □ 信託を監督する人を設けたい → 信託監督人:

    □ 自分に代って受益権を行使してくれる人を決めたい → 受益者代理人:

    □ 受益者に指定した人が適切に受益権を行使するのが難しい(認知症・未成年・精神上の障がいなど)
    → 受益者代理人:

     

    (3)何を信託するのか
    相続対策の手順に従って、まずは財産の棚卸しをして下さい。その上で、信託する財産を決めていきます。

    □ 不動産

    □ 現金

    □ 株式

    □ その他(        )

     

    (4) 信託の始まりと終わり
    信託をいつから、いつまで継続させるのかを決めます。

     

    信託の始まり

    □ 今すぐにでも始めたい
    □ 自分が認知症になったら
    □ 自分が亡くなってから
    □ その他(              )

    信託の終わり(             )

  • 民事信託の基礎知識
    自己信託とは?

    平成20年より可能になった自己信託の概要とは?

    自己信託とは、委託者自らが受託者となる信託のことをいいます。そのため信託設定後においても、本人が所有者であり管理者として、財産の決定権・裁量権を持っています。

     

    なぜ、わざわざこのようなことをする必要があるのでしょうか?

     

    それは将来、トラブルになってしまいそうな財産を自己信託しておくことで、受益者を指定しつつも、生きているあいだは自己の判断で自由に運用・管理することが可能になるからです。

     

    しかし、旧信託法においては、自己信託という方法を認めてしまうことで、信託財産が倒産隔離されてしまい、執行免脱の恐れがあると考えていました。

     

    ですが、欧米など海外でも広く認められ利用されている制度であるため、平成19年9月30日の改正信託法の施行を経て、平成20年9月30日に可能となったのが、自己信託という新しい財産管理方法です。

     

     

    自己信託を行うことで手に入る大きなメリットとは?

    自己信託という方法は、後継者に自社株を承継させる手段として非常に優れています。例え明確に後継者が決まっている場合でも、いきなり自社株を譲渡するのではなく、まずは自己信託を行います。

     

    そうすることで、当事者である本人が管理者となって議決権を行使し、経営オーナーとして経営権を握ったまま、後継者への株式移転が行えます。この際には、受益者連続信託を行えば、後継ぎである子Aの死亡後には、孫であるBを受益者とする内容の指定も可能になります。

     

    また。法人が新規事業に進出する場合でも、わざわざ子会社を設立させて出資を募らなくても、事業部門を自己信託してしまえば、資金調達が行えるなどのメリットも大きくなっています。

     

    若しくは、財産管理会社を設立した後に、不動産を簿価譲渡することがあります。その際の方法として、一度自己信託を活用し、その後、受益権売買で法人へ移転させる方法があります。

     

    懸念されていた倒産隔離への対策と締結時の注意点
    自己信託の成立に向けて、大きな壁となっていたのが、倒産隔離機能の悪用です。そのため新信託法においては、自己信託は公正証書によってのみ成立させることとしています。

     

    悪質なケースでは、債権者が詐欺行為取消権をわざわざ行使させなくても、強制執行が認められることになりました。また、公益を確保すべく、自己信託を裁判所の命により終了できるという措置も講じられています。

     

    そもそも自己信託は、高齢により判断能力が衰える前に、財産の継承者を指定する方法として検討されています。認知症対策として有効に活用することと同時に、タイミングの見極めが重要になってきます。